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EMC設計から見たPCB設計
概要
- PCBを設計する場合、仕様書に基づく機能を満足させるための設計(外形寸法・機能・放熱・電流容量等)の設計にあわせて、EMC仕様を満たすための設計も盛込まなければなりません。EMC仕様を設計時に盛込む為には、PCBを<高周波回路>と見て設計することが最短距離です。
PCBを高周波回路として見る場合、下記の点を重点的に検討すると良いでしょう。
*PCBパターン・グラウンドパターンがアンテナを構成していないか。
(積極的に利用したのがMSA(マイクロストリップアンテナ)です)
*PCBパターン・グラウンドパターンがPCB回路内に、”見えない結合経路”を構成していないか。
(積極的に利用したのがマイクロストリップラインのフィルターやカプラー回路です)
- 基本的見方(PCBパターンの共振のチェック)
高周波的に見て、片端が接地されもう片端が開放されている導体は、共振周波数の1/4波長の長さの奇数倍で共振し効率の良いアンテナもしくは結合器を形成します。
両端が開放または短絡した導体は基本的に共振周波数の1/2波長の整数倍で共振しアンテナもしくは結合器を形成します。
導体の中間にインピーダンス素子(L・C)を装荷すると電気的な波長は変化しますが、この件についてはは省略します。
- 電気的に共振した導体のアンテナとしての放射効率
*共振した導体の共振のQファクターが大きいほど、開放端電圧(短絡端電流)がQ倍となり放射効率は高くなります。
*共振した導体の特性インピーダンスが大きい程、電気力線が空間に関わりを持ち放射効率は向上します。
*厳密な意味では上記の記述は正確ではありませんがPCB設計に限ってはこう考えても良いでしょう。
具体的設計方法
プリント基板材料
- PCB誘電体材質
PCB材質を誘電体と見たとき、誘電体の誘電正接(tanδ)がQを決定する誘電体損を決めるパラメータとなります。
誘電体の
tanδ が大きい程高周波損失が大きくなりアンテナ共振のQが低下し効率が下がります。代表的なPCB材質のtanδ及び誘電率εrは下記の通りです。
プリント基板材料
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比誘電率(εr) |
誘電正接(tanδ) |
紙フェノール
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4.6 |
0.067 |
紙エポキシ
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4.1 |
0.035 |
コンポジット
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4.7 |
0.020 |
ガラスエポキシ
|
4.4 |
0.020 |
テフロン
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2.1 |
0.001 |
空気
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1.0006 |
0 |
材質の誘電率が大きくなるほどPCB配線の特性インピーダンスは小さくなりアンテナとしての効率は低下します。
上記2点の性質よりEMCを考慮したPCB材質の選定は、紙フェノール、紙エポキシ、またはコンポジット材という事になり、これらの材料は、コスト面から見ても有利と言えましょう。
PCB材料の厚み
PCB配線パターンの特性インピーダンスはPCB厚み
t
の関数です。PCB厚みが小さいほど特性インピーダンスは小さくなり、結果としてアンテナ効率は、低下します。
コスト面も考慮しつつ、t=1.2,t=1.0の材料の検討も有効です。
PCBパターンの特性インピーダンスの計算ソフトは下記サイト等から無償ダウンロードできます。
(株式会社)MEL S-NAP Microwave Suite(Ver.6) 評価版
- 空中に突出した導体
空中に突出した導体が共振すると、前出の理由からよいアンテナを形成します。PCB上への部品搭載時にこのよう構造をもつ部品には、特別な考慮または対策が必要となります。
<突出した部品のアンテナ効果>
コネクターの端子
巻線・トランス類
背の高いコンデンサー(電解コンデンサー)等
グラウンド配線
- PCBのグラウンドは全ての配線の特性インピーダンスを低下させる意味でいわゆるベタグラウンドにすべきです。
- グラウンドパターンの共振
PCBのグラウンドパターンも機械的筐体上に置かれる幅の広い導体と考えると電気的に共振しアンテナを形成します。従って上記状況を避ける様なグラウンド寸法の設定と筐体への接地方法を考慮する必要があります。
グラウンドパターンも寸法的な条件が整えば電気的に共振します。共振モードは多様でありますが代表的には以下の様なモードです。
両端が開放または短絡されたグラウンドパターンはその長さが1/2波長の整数倍の周波数で共振します。
片端が短絡され、またもう片端が開放されたグラウンドパターンはその長さが1/4波長の奇数倍の周波数で共振します。
両端が開放されたグラウンドパターンは、その周囲の長さが1波長の整数倍で共振します。
- 対策の基本的考え方
1)筐体へのアースポイントの数を増やして共振周波数を仕様外の高い周波数に追いやります。
2)筐体とPCBの間に誘電体を充填し、筐体からみたPCBグラウンドの特性インピーダンスを下げます。また誘電体損失により高周波損を増やしQを下げてやります。
3)筐体の電磁遮蔽(シールド)効果を増して、PCBグラウンド共振による輻射が筐体の外に漏れない様にします。
電源配線
- ECUの電源ラインは、PCB内の総配線長も長く、またC−MOSロジックの電源ラインより生じるインパルス性のノイズ電流が重畳する場面も多いので、可能な限り特性インピーダンスを下げる工夫が必要です。
1)特性インピーダンスを下げる為、可能な限りパターン幅を広くする。
2)配線パターンの途中でパターン幅を変更するとインピーダンスがステップ状に変化しその変節点で輻射が起こる可能性があるのでパターン幅は一定にする事が望ましい。どうしても必要なときはテーパー構造とする事が望ましい。
3)配線パターンを途中で曲げる必要がある場合、直角に曲げると屈曲点で特性インピーダンスの不整合がおこり輻射がおこる可能性があるので、曲げる場合は大きなRをとって曲げることが望ましい。また、Rがとれない場合はCをとり、屈曲点の容量を減らす工夫が必要である。
4)物理的に直交する2本の導体の電磁的結合は基本的にゼロであるので、特に結合に注意を要する信号線間は互いに直交する方向のパターンが望ましい。
信号配線
- 信号配線のパターンも電源配線の考え方と同等です。
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